雨の日だけ袖を通す、階級章のない一着
オールウェザーコート、通称トレンチコート。ドレスユニフォームの上に羽織る雨天用の上着で、S-Rサイズ、肩幅46cm・身幅52cm・袖丈65cm・着丈115cm。かなり体格のいい人物が着ていたのだろう。ベルト付きのダブルブレスト、この型は誰もがどこかで見た記憶があるはずだ。
トレンチという名の由来
第一次大戦(WWI)、英軍将校がぬかるんだ塹壕(トレンチ)で重いウール外套の代わりに選んだのが、防水性のあるギャバジン地のコートだった。トレンチコートの名はここから来る。米陸軍もこの型を受け継ぎ、正装の上に羽織る雨天用オーバーコートとして、肩章・袖のストラップ・ベルトといった軍用の名残をそのまま採用してきた。
生地とベルトが語る用途
撥水加工を施したギャバジンに近い綾織りで、表面にわずかな光沢がある。ベルトは飾りではない。風の吹き込みを止め、裾のばたつきを抑える実用装備だ。裏地には正装を汚さないよう滑りのいい素材を使うのが定番だった。
複製にはない摩耗の跡
複製のトレンチコートは市場に山ほど出回っているが、実際に儀仗や式典でドレスユニフォームの上に着られた一着は数が少ない。若干の撥水効果が今も残っているのは素材の質の証だろう——袖口の擦れや型崩れに、立っていた時間がそのまま刻まれている。













